京王線にこだわる理由
京王帝都5000系は、ドアの開け閉めの多い通勤電車には無駄と思われていた冷房装置を普及させた車輌です。早い時期から特急、急行、快速に加え、通勤時には通勤急行、通勤快速と利用客の必要に応じて運行を細分化したのも京王5000系と記憶します。加えて茶色あるいは緑一色の塗装が普通であった当時に、クリーム色に赤のラインという斬新なデザインを採用したことでも知られます。いろいろな点で近代通勤電車の基礎を創った車輌であることに違いないと思うのです。
もちろん歴史に残る名車はその他にも多くあり、みな愛着を感じます。対して今の車輌に温かみを感じない理由を挙げるならばそれは、『あまりに機能的になりすぎた点』にあるかもしれません。ステンレス車輌が大半を占める現在、その冷たく反射する銀色のボディ、車内居住スペースをかせぐためにぎりぎりまで薄くした壁面。柱を細くして拡大した明るい窓。走り始めたら車輪がレールをころがるわずかな音のみでモーター音は一切せず、ロングレールの採用で「ガタン!ゴトン!」すら言わない。利用する側には快適この上ないのですが、ただの鉄の箱になってしまったように思います。かといって管理人よりさらに上の世代が懐かしむ16m車輌や木造電車のけたたましいモーター音を聞かされるとなるとさすがにつらい。京王5000系やその当時の車輌はその点、人間的温かみと近代的機能を兼ね備えていると思うのです。
小豆色のシートに腰掛けます。できれば連結部の小窓のある部分、肩のあたる位置に布が貼ってある場所が管理人は好きでした。シートに身を預けると、扁平な座面にもかかわらず包み込むような感覚があります。速度が上がるにつれモーター音が高まりますが、けしてヒステリックな音質ではなく、連結部のきしむ「ゴトトトトト...」という音や、線路の継ぎ目を拾う「ゴトンゴトン」という音がとても心地よかったと記憶します。
鉄道マニアに言わせれば譲渡時改造に伴い、台車やモーターの交換があったはずで全く別物かもしれませんが、ボディを塗り替えられているものの譲渡先の5000系にはその当時の面影がしっかり感じられ、何十年ぶりかにホッとしました。このまま帰るのをやめようかとまじめに考えてしまいました。
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